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エネルギー戦略とは?

CO2ネット・ゼロを取り巻く世界の情勢
~炭素クレジットの可能性を探る~

世界中でCO2排出量を実質的にゼロ(ネット・ゼロ)にする「カーボンニュートラル(炭素中立)」に向けた動きが加速している。その実現に大きな役割を果たすのが、排出量をオフセット(相殺)する炭素クレジットだ。企業関係者の高い関心を受け、2月10日に開催されたオンラインセミナーでは、脱炭素の取り組みに詳しいみずほ情報総研・内藤秀治氏の講演から炭素クレジットの最新動向が報告された。

内藤 秀治 氏

内藤 秀治 氏

みずほ情報総研
環境エネルギー第2部
コンサルタント

投資家から選ばれる持続的な企業経営を

パリ協定は、産業革命前に比べた世界の平均気温上昇を、できるだけ1・5度に抑える目標を掲げている。世界中の科学者が参加するIPCC (気候変動に関する政府間パネル) は、パリ協定の目標実現には、 2050年までのCO2排出ネット・ゼロ達成と、 それ以降の大気中CO2純減が必要と報告。

これを受け、日本を含む世界の多くの国々が2050年までのカーボンニュートラルを宣言。環境対策が不十分な国からの輸入品に関税を課す「国境炭素税」などの政策も具体化し始めている。

企業もESG投資拡大で、持続可能な経営を投資家に説明する必要に迫られ、相次いでネット・ゼロへのコミットを表明している。

内藤氏は「適応できない企業は『ビジネスチャンスを失う』と投資家に警告される時代だ」と訴える。

カーボンリムーバル案件のクレジットに注目

とはいえ、企業が単独でCO2排出をゼロにするのは困難だ。そこで、 どうしても避けられない排出分をオフセットする炭素クレジットへの関心が高まっている。炭素クレジット市場は、政府主導のキャップ・アンド・トレード等の排出権を取引する規制市場と、民間主導の自主的な取り組みで生じるCO2削減分をクレジットとして取引するボランタリー市場に大別される。

企業がCO2排出をオフセットする場合は、国際取引が容易といった使い勝手の良さから、ボランタリークレジットが使われることが多い。クレジットは信頼性を担保するために第3者機関が認証。多くの制度の中で代表的なのが取引量の多いVCS、Gold Standard、CCBの3つの認証制度のクレジットだ。

国際民間航空機関は2020年以降、CO2排出を増やさない目標を設定。排出増加分はクレジットでのオフセットを各社に義務づけるスキームを開始した。こうした動きもあって、ボランタリークレジットの需要は急拡大している。

供給側では、クレジットの高付加価値化が進む。背景には、クレジット創出対象プロジェクトの見直しがある。VCSなどの認証制度は、プロジェクトに伴うCO2削減以外に、地域の雇用、生物多様性などSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献する副次的な効果も評価する動きを強めている。

また、これまで再生可能エネルギーなどによるバリューチェーン内のCO2削減に限っていた排出量算定基準「GHGプロトコル」の対象に、バリューチェーン外の炭素除去も含める方向で見直しが始まった。ESG投資家向けに企業目標の科学的整合性を確認するSBT(サイエンス・ベースド・ターゲット)など環境イニシアチブも同様の方針に転換。クレジット認証制度では、非後発開発途上国の再エネ案件のクレジット創出を制限する動きを示している。

そこで、再生可能エネルギーに代わって注目されるのが、大気中のCO2を吸収・回収・固定するカーボンリムーバル(炭素除去)のプロジェクト案件だ。炭素除去は、人工的に大気中からCO2を回収して地中に貯留する技術由来と、植林や農地保全などにより樹木や土壌に炭素を吸収・貯留させる自然由来がある。排出削減だけでは、 2050年までのCO2ネット・ゼロ達成が困難なのは明らかで、今後は、炭素除去による炭素クレジットの役割が大きくなる。さらに副次的価値への評価も加わって、 案件の種類によってクレジット価値に差がつけられると内藤氏は予想。「今後、企業にとってはカーボンリムーバル案件のクレジット活用がカギになる。売り手市場化が進む中、クレジット調達戦略も重要になるだろう」と語る。

ストーリーを意識して投資家への発信を

CO2ネット・ゼロには、自社のバリューチェーン内での削減、補完的な関係を築く他社との連携、外部の炭素クレジットを使ったオフセットの組み合わせが必要となり、取り組みは複雑になる。

内藤氏は「大事なのはストーリー性をもって、自社の取り組みを発信し、投資家らステークホルダーとコミュニケーションできるようになることだ」と指摘。ストーリーの例に、グローバル資源会社がクレジット利用の狙いを「市場メカニズムを介した多様なステークホルダーとの連携へのチャレンジ」と説明したことを挙げた。

一方で、企業の取り組みは政策や国際ルールの影響が避けられない。日本のエネルギー基本計画の改訂、世界のクレジット認証制度のルールの見直し、先進グローバル企業の最新動向など、国内外の情報収集も重要だ。また「グローバル企業の影響力が強い認証制度などルールメーカー側に対しては、ルールに非現実的な部分があればきちんと指摘するといったフィードバックを積極的に行うべき」と呼びかけた。

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