投資家に評価される
ESG 経営へ

無理なく脱炭素化を目指す
トランジションの
発想を活用する

世界的なESG投資の拡大により、持続可能なエネルギーの選択が問われている。
企業にとって何が重要なのか、投資家の視点から見た賢いエネルギー選択を考える。

吉高 まり 氏

吉高 まり 氏

三菱UFJリサーチ&コンサルティング
経営企画部 副部長
プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト

コロナ禍において急成長を続けるESG市場

コロナ禍のもとでESG投資が増加している。短期の業績が見通せないなか、中長期的な視点をもつESG投資家による投資が増えているためだ。コロナ後を念頭に置いた「グレート・リセット」をテーマとする2021年の世界経済フォーラム(ダボス会議)でも、ESG経営の重要性が再認識されそうである。

そうした状況のなか、「金融市場から捉える、脱炭素化へのトランジションにおける賢いエネルギー選択の在り方」と題して、世界のESG投資事情に詳しい吉高まり氏の講演が行われた。

まず吉高氏が述べたのは、E(環境)、S(社会)、G(企業統治)のそれぞれについての投資家の視点である。

「Gについては、以前から投資家は当然のこととして評価の対象としてきた。重要なのは、投資家の見るE、Sの情報が、その企業の将来におけるGのリスクやビジネスチャンスを示しているという点だ」

経営トップによる環境や社会に対する将来ビジョンこそが、ESG投資家にとって重要な情報となるのである。

求められるのはストーリーと将来視点での企業価値

「こんなに環境の情報を出しているのに、投資家から質問も評価もない」という企業からの声も多い。吉高氏が注目しているのはS&Pの「カーボンエフィシェント指数」で、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もこの指数を採用して運用をしている。

「ESG投資家は“将来に対する情報”が出ていないと感じている。将来の企業価値に対してどういうシナリオを持っているのか、そのために現在のEやSの情報が欲しいのだ」

これまで多くの企業では、中期経営計画で3~5年先の目標を掲げて成長戦略を描き、それを積み重ねていくフォア・キャスティングの考え方がとられてきた。確かに短期的な利益確保のために大切だが、これだけでは今回のコロナ禍のような突発的な問題に対して、柔軟で強靱な対応ができるかが判断できないと吉高氏はいう。

「そこで必要になるのがバック・キャスティングの発想。例えば、2050年における企業のあるべき姿を定め、そこを起点に現在を振り返って何をすべきかを考えるやり方だ」

当然、フォア・キャスティングとのギャップが生じるが、重要なのはギャップを見つけて課題の優先順位をつけて解決することにある。そして、将来視点でいかに企業価値を高めるかが、経営層に求められているのである。

脱炭素に向けたエネルギー戦略ポイントはトランジション

Eの評価についていえば、投資家がもっとも注目しているのが気候変動対策である。では、具体的にどのようなエネルギー戦略が求められているのか。

環境問題への取り組みの一つとして、各国の金融機関や企業が、資金使途を環境分野に限定したグリーンボンド発行を行っている。興味深いのは、2018年に発行された日本郵船グリーンボンドにおいて、LNG燃料供給船の建造が使途の一つとなっていることだ。

「LNGがグリーンなのかと疑問を持つかもしれない。しかし、すべての企業がいきなり脱炭素を実現できるわけではない。ならば、まずは移行段階である“トランジション”の期間を経て、脱炭素に向かっていくというストーリーを見せることで、投資家はその企業を評価するようになる」

求められるのはストーリーと将来視点での企業価値

菅義偉首相は所信表明演説において「2050年のカーボンニュートラルを目指す」と宣言した。実現に向けて、燃料電池やEVの普及も重要だが、金融機関や投資家は拙速な対策を求めているわけではない。

「彼らは、収益棄損して企業価値を下げてまでの対応は期待していない。それよりも、トランジションのシナリオをきちんと投資家に説明することが必要であり、万一実現できなかった場合には、理由を説明して次の課題解決を示すことが大切だ」(吉高氏)

トランジションという観点からすると、炭素効率とレジリエンスの高い天然ガスインフラは重要なツールの一つといえよう。

「日本の自然災害の多さには投資家も心配している。日本では、食糧、水、エネルギーの強靭性が何よりも大事であり、エネルギーでいうと災害で止まることがないガスインフラは重要だ」

企業に求められるESG経営には、想定外のリスクに対して柔軟に強靭にどう対応できるかも含まれる。それを将来にわたって維持しつつ、トランジションを活用しながら脱炭素に向かう道筋を考えていくべきだろう。

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