CNLバイヤーズアライアンス
企画"プロジェクトを知る"
2023年10月26日(木)、東京ガスのカーボンニュートラルLNG(以下、CNL)に活用されているクレジットの創出プロジェクトの一つである「カティンガン・メンタヤプロジェクト(Katingan Mentaya Project)」を運営するRMU(Rimba Makmur Utama)社のCEO・ダルソーノ・ハルトノ氏による講演会が赤坂プリンスクラシックハウスで開催された。当日は、CN都市ガスを購入されているCNLバイヤーズアライアンスのお客さま(20社34名)、CN都市ガスを供給している東京ガス、CNLの売主であるShell社、そしてクレジット創出に取り組むダルソーノ氏とCN都市ガスのバリューチェーンに関わる企業が一堂に会し、ダルソーノ氏からプロジェクトの概要や地域との共生を大切にしたさまざまな取り組みが紹介された。
CN都市ガスを購入されているCNLバイヤーズアライアンスのお客さまとCN都市ガスを供給している東京ガス、
CNLの売主であるShell社、クレジット創出に取り組むダルソーノ氏との集合写真
ダルソーノ氏の講演に先立ち、東京ガス(株)ソリューション共創部長 松本幹雄氏は、「CN都市ガスの販売開始から5年目を迎え、128のお客さまにご利用いただくまでに成長してまいりました。今回の講演会から現地のプロジェクトの様子を少しでも身近に感じていただいて、カーボン・クレジットへの信頼性を高め、これまで以上にCN都市ガスを安心してご利用いただければ幸いです」と、会の主催者を代表してあいさつした。
続いて、東京ガス(株)ソリューション共創部 松家京平氏からCNLバイヤーズアライアンスの設立から今日に至る歩み、CNLやCN都市ガスの意義や仕組みについての説明があった。「お客さま、東京ガス、社会の視点において、CN都市ガスは、非常に重要な意味を持った商材です。地球規模での温室効果ガス削減に寄与できる他、クレジットの創出プロジェクトを通じて国際社会への貢献にも寄与できるものです」と、その重要性を強調した。
今、行動しなければ明日はない
まず、ダルソーノ氏はカティンガン・メンタヤプロジェクトのこれまでの道のりについて振り返った。プロジェクトを運営するRMU社を立ち上げたのは、産業化のプロセスで生まれた人間と地球の破壊的な相互作用を、害のない相互に高め合うものに変革していきたいという強い思いがあったからだという。RMU社は、自然をベースとしたソリューションを提供している企業であり、気候、コミュニティー、生物多様性などにプラスの効果をもたらす取り組みを推進し、恒久的に続く遺産として残すことを模索している。
現在では、カーボン・クレジットを創出する世界最大級の自然ベースのソリューションプロジェクトに成長したカティンガン・メンタヤプロジェクトだが、元々はダルソーノ氏が2007年にビジネスパートナーとともにたった二人で始めたプロジェクトだった。初期の頃は活動資金を得ることもままならなかったが、フィランソロピーの会社からの寄付や、日本の企業や政府からの協力を仰ぎながら、6年後にはインドネシア政府から生態系修復コンセッションの認可を取得するまでになったという。さらにそれから4年後、ようやく企業としてカーボン・クレジットを創出し、販売を開始することができるようになった。「世界を変えたいという夢を見て、それを実現することができた。人と地球を第一に考えた社会や経済をつくる、新しい世代のリーダーとなる人たちを育てていきたい」と、ダルソーノ氏はこれからのビジョンを語った。
人々の行動変容を促し、
環境を保護していく
プロジェクトにおいて、カリマンタンの泥炭地・森林保全に取り組む地域は、約15万ヘクタールという東京23区の約2.5倍の面積に及び、35の村落がある。枯れた草木が分解されずに積み重なっている泥炭地は、大量のCO2を含んでいる。1990年代にはアブラヤシのプランテーションにするために土地の大規模開発が行われたことで、乾季になると泥炭が表出してCO2が放出されるようになった。さらに、燃えやすい泥炭の土地は火災を発生しやすいというリスクを抱えており、湿地帯としての管理が不可欠となる。火災が発生すると膨大な量のCO2が排出されることから、気候変動対策や生物多様性保全の観点からも大いなる脅威となっているのだ。
ダルソーノ氏は、火災防止や森林保全のため、これまでの焼畑農業から脱却するように農家の人たちを説得してきた。森林を切り開いて農業を行うのではなく、農業と林業を両立させる新たな森林農法を提案しているという。「簡単なことではないですが、人々の行動変容を促すことが重要」だと語るダルソーノ氏。農家の人たちへの説得に大変な労苦が強いられ、最初は約500人いる農家のうち、2人しかプロジェクトに加わらなかったという。しかし、肥沃な土地が育つにつれ、現在では100人以上が焼き畑をしない、化学農薬も使わなくて済む農法を取り入れている。このほか、地域の人たちが販売できる商品を生み出すために、ココナッツシュガーの作り方を教える農業スクールも立ち上げた。「限りある木を伐採するのではなく保全することで、持続可能な生活基盤を整えて所得を上げる仕組みをつくりたい」。人々の行動変容の必要性を訴えることに、ダルソーノ氏やプロジェクトメンバーは引き続き力を注いでいる。
クレジットの収益で地域を強くし、
生物多様性を守る
地元の人々にとって川は元々トイレであり、食材や衣類などを洗う場所でもあった。カーボン・クレジットで得た収益は、学校教育支援や植樹のほか、トイレなど衛生施設の設置や医療機器の購入といった、地域の強靭力向上のために使われている。「地域に力を与えていくことは、人々のウェルビーイングの改善につながるとともに、持続可能な経済発展を推進していくことにもなります」。道路や学校の建設、太陽光発電の導入などインフラ整備も進める一方、医薬品として活用できる魚粉を得るために魚の養殖にも取り組んでいるそうだ。「コミュニティーの生産性を向上させるとともに、生物多様性を保護していかなければならない。今、行動しなければ、明日はないのです」と、ダルソーノ氏はプロジェクトにかける強い思いを語り、講演を締めくくった。
講演会終了後には、CNLバイヤーズアライアンス加盟企業をはじめとする参加者の皆さまのネットワーキングも実施され、プロジェクトや今後の活動についての意見交換が活発に行われた。
Q.プロジェクトにおいて、ハッピーだったこと、アンハッピーだったことは?
最初に協力してくれた2人の農家に新しい農法を提案したところ、土地が肥沃になって米もよく取れるようになったのですが、その米が何者かに盗まれてしまったのです。これがアンハッピーな出来事です。しかしその後、その農家の方が「土地が肥沃になったことを実感できてうれしかった、失敗してもよいので続けましょう」と言ってくれました。私はとてもハッピーでした。
Q.メンバーとの情報交換や意思決定の機会を、どのように設定されていますか?
農家の方一人一人に自分の電話番号を渡し、ソーシャルメディアでグループをつくって、コミュニケーションをすぐに取れるようにしています。
Q.プロジェクトの森林保全活動は、DACやCCUSなどの技術に対して、どのような優位性を持つものでしょうか?
炭素回収技術を用いるのは、現在ではとても高額な費用が掛かりますし、気候変動対策は炭素回収だけに取り組めばよいというものではありません。自然というのは、炭素だけの話ではありません。今、自然に対して価格付けできるのはカーボン・クレジットだけであり、気候問題の解決、生物多様性の保護など、われわれ人類の生存に欠かせない自然を守るためには、炭素回収技術だけでなく、クレジットの仕組みも必要です。あらゆる手法を用いて対処していかなければならないほど、現在の気候変動という問題は極めて重要で難しい問題なのです。
Q.カーボンニュートラル化に向けたクレジットの重要性と、その認知方法についての考えをお聞かせください。
カーボンニュートラルは一夜にして達成できるものではないからこそ、クレジットが必要です。水素や再生可能エネルギーに関連する技術の進展を待つとともに、自分たちのエネルギーの消費の仕方や、どこからエネルギーを得るかを見直していかなければなりません。自然に投資をするというのは、地元の人とか、生物多様性にとって恩恵があるという点で、再生可能エネルギーからつくられたカーボン・クレジットとは意味合いが異なります。現在、自然ベースのソリューションに投資をすることに人々が価値を見出しているからこそ、自然がその解決策を提供するようにしていかないといけないと考えます。
Q.プロジェクトが開始される前と後では、地域の人々の生活はどのように変わりましたか?
最も大きな変化は、彼らが自然を保護すると同時に、持続可能なサステナブルな生活を送る糧を手に入れたということです。焼畑農業や違法な森林伐採をしていた人々は、新たな農法を学んで米などの作物やココナッツシュガーを作るようになり、所得も上がりました。「RMU社に就職したい」と若者たちが言ってくれることも、CEOとして誇りに思います。
Q.本日の聴講者や、クレジット購入者の皆様に伝えたいことはありますか?
クレジットの購入は、カーボンニュートラルの実現につながるのはもちろん、現地の人々の暮らしや環境に非常に良いインパクトをもたらすということを、皆様にお伝えしたいです。
小島化学薬品株式会社 津布楽さま
現地でどのような活動がなされ、成果を得ているのかについて、プロジェクトを推進する現地の方に説明していただいて理解が深まりました。当社の取り組みの意義を実感することができて良かったです。
大鵬薬品工業株式会社 真田さま
プロジェクトは、SDGsの多くのターゲットに関わりがあり、CNLを利用することで私たちも貢献できているという、カーボンオフセットのさまざまな背景を知ることができました。講演会の内容は、社内でもフィードバックしたいと思います。
株式会社西武リアルティソリューションズ
平田さま
地域の人々と交流し、環境保全や生活基盤の改善に取り組む情熱、バイタリティーに感銘を受けました。私も仕事に臨む思いや情熱を示しながら、当社の若手社員をもっと鼓舞していきたいですね。
株式会社ダイセキMCR 大森さま
環境保全だけでなく、地域の方々の生活保全にまで関わられていることが魅力的で、当社の取り組みの意義を十分に感じることができました。社内やお客さまにも取り組みを訴求し、今後のカーボンニュートラルへの活動に役立てていきたいです。